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新すまい論

すまいはいま③ 場を占有するというストレス

占有する意味

すまいをかまえる最も重要な目的が、「場を占有すること」であると前回述べました。
そもそも何かを占有するというのはどういうことなのでしょう。

ジャック・アタリは『所有の歴史』という著作のなかで、所有※という概念について、さまざまな分野や時代の知を渉猟しながら、論証していますが、
その中に、とても興味深い記述があります。

所有概念のいずれの把握の背後にも、つねにある徴候、無視できない脅迫観念が現存していたことが、ようやく顕わになったと思われる。所有が秘め隠しているもの、それは死の恐怖だ、と要約しておこう。
(略)
何にもまして人々を導いた最初の念願は、存在し、存続し、死を遅らせることにあったといえるだろう。そして、存続するためには、さまざまな形態をつうじてつねに同一の策略をめぐらさねばならない。つまり、自分たちの力でもあり生命でもある、他人の財をわがものとし、所与の時代に作りあげられた死の観念に一番正確に対応する仕方で、その財を使用しなければならなかったのである。
(『所有の歴史 本義にも転義にも』(ジャック・アタリ 山内 訳 法政大学出版局)

アタリのこの指摘は、住宅相談などにかかわり、すまいの問題から派生する人々の不安と日常的に向き合っているものにとっては、合点のいくものです。
たとえば、なぜ人々が訪問販売リフォームのような不意の訪問者の勧誘にたやすく乗ってしまうのか。
それは、すまいが劣化していくことが、自己の生存が脅かされることと同一であり、強い不安を感じるからなのです。壁がひび割れたりとか、屋根材が古くなったとか、軽微にみえる問題の背後に強い心理的ニーズが隠れています。

すまいの根源的なストレス

さて、この「場の占有」とは、きわめて政治的・経済的な行為です。
空間の排他的利用 これは生き物で言えばなわばりであり、国家で言えば領土ということになります。これはどちらも争いの種であって、最終的な解決が力の行使であることもしばしばです。
もちろん、現代社会においては、不動産の権利については、「所有権」「借地権(地上権と賃借権)」など、社会的なルールが定めら、取引によって獲得されます。しかし、その取引の原資である金銭を獲得するためには、きびしい競争社会をかいくぐらなければならず、このし烈さといったら、生き物のなわばり争いとどっこいどっこいです。

さらに、占有を継続していくためには、ローンの返済や賃料の支払い等などを続けていかなければなません。これは家計を一にする家族、とくに夫婦にとって大きなストレス要因となります。
平成22年国民生活基礎調査によると、ストレスの原因のなかで「収入・家計・借金等」は性・年齢階層によらず一貫して高くなっています。
ストレスの大きさの評価に使われる「Holmes と Raheによるストレス強度表」では、 「1万ドル以上の借金」はストレス強度31で20位にランクされています。
このほかに、すまいをかまえれば必然的に近隣関係が生じますから、関係の良否に関わらず継続的に近所づきあいのストレスにさらされることになります。

そもそも、場=土地の占有が自らの生存の不安に根差しているとしたら、占有が実現したとしても、その状態を維持していくことへ全力を注がねばならず、これは言葉をかえれば、また新たな不安に脅かされ続けることになるわけで、生存への不安は一向に解消しないことになります。

家族構成員ひとりひとりについてみれば、ひとつのすまいにおいて、それぞれが自己の存在のための場の占有を必要とします。これは、間違いなく争いのひとつであり、円満な家族であれ、またそれが顕在化しているか否かにかかわらず、それぞれの家族形態、関係性などに応じてさまざまな形とりながらも確実に存在することになります。

そして、まさにそのことからストレスが発生し続けるわけです。

 

※土地や住宅に関しては、「所有」のほかに「賃貸」という形態もあるので、ここでは「第3者の利用を排除して、独占的に利用する」という意味で、「所有」とほぼ同義の言葉として「占有」を使用しています。また、法律において「占有」という概念がありますが、これは所有権という本件に付随する概念であり、ここでいう「占有」とは異なります。

 

 

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