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取組事例

事業者によって異なる耐震診断結果の評価

木造2階建住宅に住むAさん。建物が古くなったのでリフォームをしようと考えました。リフォーム業者2社から耐震リフォームを勧められ、それぞれから耐震診断の結果を知らされました。ところが、耐震診断の結果がリフォーム業者2社で異なっていました。不信感を持ったAさんから、セカンドオピニオンを求められました。

そこで当協議会から建築士2名を派遣。現地を訪れ、耐震診断を実施しました。

Aさんが取得していた2通の耐震診断書は、ひとつは大手のリフォーム専業者、もうひとつは地元の工務店のものでした。建物の耐震性能を示す「上部構造評点」は、リフォーム専業者が0.52、工務店が0.43となっていました。
両者ともに「倒壊する可能性が高い」という結果となっており、これに基づいて耐震改修を含んだリフォーム工事の見積書が出されているのですが、もととなる数値が異なれば、その費用にも影響が出てくるはずで、Aさんはどちらを信用したらいいのかわからなかったのです。

ちなみに上部構造評点とその評価は、
1.5以上         倒壊しない
1.0以上~1.5未満 一応倒壊しない
0.7以上~1.0未満 倒壊する可能性がある
0.7未満         倒壊する可能性が高い
と定められています。

さて、リフォーム専業者、工務店ともに、耐震診断は「一般診断法」に基づいて行われていましたが、当協議会では、より正確な耐震診断結果を求めるとともに、2者の耐震診断や改修の見積等を正確に検証するために、「精密診断法」による耐震診断を別途実施することにしました。
通常は、耐震改修の必要性を図るために「一般診断法」が用いられ、そこで耐震改修の実施が検討された場合、改修後の耐震性能の判定はより正確な「精密診断法」によることになっています。精密診断では必要に応じて破壊検査をすることになっていますが、当該案件ではこれは行わず、床下や、天井裏等目視で確認できるところをすべて確認した上で診断を実施しました。

その結果、当協議会による診断の上部構造評点は、0.40となりました。
この結果をベースとして、2者の診断書について詳細に比較を行い、その妥当性についての評価を行いました。

まず、両者で採用している診断方法とそのソフトウェアが異なっていました。リフォーム専業者は一般診断法でも「清算法」と呼ばれるより詳しい診断方法を用い、工務店は通常の一般診断法による診断を行っていました。
この結果、計算に必要な係数等がそれぞれの診断法で異なっており、また、一般診断法では目視が基本となるために床や壁の仕様、壁強さ倍率などが診断者によって異なるため、結果的に評点に違いが生じていました。
また、既存図面と耐震診断のために作成された図との食い違い、耐震診断書中の図の不整合等も見受けられました。

さらに、どちらも耐震改修が必要という結果になっているので、リフォームの見積書が提出されているのですが、工務店は耐震計画の図面が添付されているにも関わらず、その効果について、精密診断でなく、一般診断法で行われていました。
また、リフォーム専業者は、使用しているソフトウェアで自動的に算出される耐震改修の数値が採用されていて、必要な図面が作成されておらず、この点で両者について問題点が指摘できました。

いずれにしても、耐震診断の考え方やその方法、結果の考え方、耐震改修計画の進め方等について、十分な説明や資料の作成がなされておらず、この点でAさんにとって、リフォームの費用対効果を正しく判断することができず、不安要因となったと思われました。

また、本調査の目的が、耐震改修に関することだけだったので、これ以上の助言等は行いませんでしたが、そもそも本住宅では、過去に行われた増築についてAさんに構造上の不安があり、この点で2階部分を減築するなども選択しとして意識していたこと、とくに奥様に子供が巣立ったあとに自分の趣味を生かすためのしつらえの希望など、隠れたニーズがあったのに、両事業者ともにこれを十分把握できず、耐震改修や仕上げ更新等のハード側の提案しかなされなかったことが、Aさんの不信や不満を醸成していたことが見受けられました。

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