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新すまい論

すまいはいま① すまいのストレス

職場より家庭がストレス

少し前、ウォール・ストリート・ジャパンが、「家庭よりも職場のほうがストレスが少ない」という内容の研究を紹介し、話題となりました。
これは、米ペンシルベニア州立大学の研究者チームが、「Social Science & Medicine(社会科学と医学)」電子版(August 2014)に掲載したもの。ストレスに反応して副腎皮質から出されるホルモンの分泌量「コルチゾール値」を調べることで、被験者のストレスを測りました。
研究チームは、米国北東部の中堅都市で、被験者122人を無作為に抽出。その結果、被験者の大半が、職場にいる時の「コルチゾール値」が、家庭にいる時よりも恒常的にかなり少ないことがわかりました。これは男女、既婚か独身か、子供の有無、また職業などの属性とは関係なかったとのこと。
結果をまとめると、

被験者は職場のほうが家庭より生理学的ストレスが少なかった。
所得の高い人は職場でのストレスがより大きくなる。
女性は、明らかに家庭より職場のほうに幸せを感じる。
家庭に子供のいない人のほうが職場でのストレスが家庭より少ない。
仕事が休みの日より勤務日のほうがよりストレスを感じる。

などとなっています。

かつて榎本健一が、
「せまいながらも楽しい我家 愛の灯影(ほかげ)のさすところ 恋しい家こそ私の青空」
と歌ったように、家庭とは暖かいだんらんに満ちたものとしてイメージされ、また、住宅メーカーのテレビCMなども、多くは基本的にこの路線に沿って、「家=幸せ」イメージを発信し続けているのですが、実際はそれとはまったく真逆の現実が進行しているようです。

『新版 紛争管理論』(日本加除出版、2009)の中で、レビン小林久子は、Myra Marx Ferree(professor of University of Wisconsin-Madison)の言を紹介していますが、それはさらに過激で、
「家庭とは、世代と世代が戦う闘技場であり、思いやりと反目が交差するリングである。そこでは、アイデンディティの探求が開始され、競われる(1990)」
と書かれています。

家族のストレス

日本家族心理学会は、2009年の年報で、家族のストレスについて取り上げています。
『家族のストレス(家族心理学年報27)』(日本家族心理学会編、金子書房 2009)

同書の冒頭「家族ストレスの心理学」において、臨床心理学者の亀口憲治氏がつぎのように述べています。
第2次大戦後のアメリカでは傷病兵、精神を病んだ患者を抱えました。膨大な戦時ストレスから解放され、その後の急激な社会変動にさらされて、「家族員個々のストレス対処では太刀打ちできないほどのストレスを「家族全体」がこうむる事態が進行」(我妻、1985)、こうした背景を受けて、70年代から80年代にかけ、心理学の分野で家族療法が発展したということです。
それから30年を経た日本の家族の現状に、亀口は、当時のアメリカの家族の危機的状況と似た雰囲気があるといいます。
それは「家族の安らぎの喪失」です。

児童虐待、摂食障害、DV、養護者による高齢者虐待、自殺(50代中年男性)といった欧米での家族療法の発展を促した家族ストレスの増大が目立つようになり、社会状況に変化が生まれています。こうしたなかで、「過大な家族ストレスに対処するために、家族療法の視点や原理を応用したカウンセリング、つまり「家族療法的カウンセリング」への関心が高まりつつある(『家族療法的カウンセリング』(亀口憲治、駿河台出版社、2003)」といいます。

同書では、
「家族ライフサイクルにおけるストレス」として、乳幼児の親の育児ストレス、青年期問題と家族ストレス、中年期における夫婦(カップル)ストレス、シルバーエイジと家族ストレス、
また、「現代日本の家族ストレス」として、夫婦間葛藤と家族ストレス、児童虐待と家族ストレス、発達障害と家族ストレス、家族の病とストレス、職場環境と家族ストレスについて論考しています。

どうやら、すまい=家庭におけるストレスとは、こうしたストレスが複合した「家族のストレス」として、構造的に存在するもののようです。
こうしてみると、ペンシルベニア州立大学の調査や、Myra Marx Ferreeの過激に見える言も、なるほどと頷かされます。

こうした変化が、家族の生活を包括する環境としての住宅の「かたち」や生産、供給、維持システム等についても、劇的な変化を促していることは間違いありません。

それがどのようなものになるのか、様々な側面から考えてみたいと思います。

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